監修/八代綜合法律相談事務所 弁護士
髙橋 知寛 先生
2019年2月号の記事で、今後、相続に関する改正法が順次施行されていくことをお話しました。今回は、そのうちの「配偶者居住権」という制度について触れたいと思います。次の事例で考えてみましょう。
AとBは昭和20年に結婚しました。二人の間には長男Cがいます。AとBは、結婚後に購入した家で一緒に暮らしてきました。長男C は独立して別の家に暮らしています。平成30年にAが死亡しました。Aの遺産は、自宅の建物と敷地だけです。
これまでの法律のもとでも、BとCが話し合って、お互いが納得できる遺産分割協議ができるならば問題はありません。しかし、Bは建物に住み続けたいけれども、Cとしても一定の相続をしたいと考えているような場合で、BとCの関係もあまりよくないときには、Bが不動産を相続する代わりにCに一定のお金 (代償金)を払うか、その支払いができないときには不動産を処分することを考える必要が出てきます。これでは遺された配偶者Bの従前の生活環境を奪ってしまうことになり、酷となることもあります。
そこで、相続開始の時、被相続人の住居に居住していた生存配偶者に、原則として終身、その住居に無償で生活できる権利を確保する制度として、配偶者居住権の制度が創設されました。
配偶者であれば配偶者居住権が常に認められるのではなく、①被相続人の配偶者が、②被相続人の財産に属した建物に、③相続開始の時に居住していたことという要件を満たす必要があります。
配偶者居住権が認められる場合には、配偶者は居住権という権利の価値分を相続したものとして扱われます。上の事例で建物と敷地の全体の価値が1,000万円、居住権の価値が400万円と評価されるとき、Bは配偶者居住権が認められることで400万円分の相続をしていると扱います。そして、1,000万円から配偶者居住権の価値400万円を差し引いた600万円が建物と敷地の所有権の価値だとすると、Cが建物と土地の所有権を相続したうえで、CからBに100万円の代償金を支払うという処理が考えられます(その結果、BとCがそれぞれ500万円ずつの価値を相続したことになります)。
このような配偶者居住権の制度が適用されるのは、2020年4月1日以降に発生した相続からとなります。まだ施行されていない制度ですので、未だ不透明な部分もありますが、配偶者の居住を保護する制度ができたということくらいは覚えておかれるとよいでしょう。
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