やつしろ法律相談
監修/八代綜合法律相談事務所 弁護士
髙橋 知寛 先生
今年はもう暖房器具を収納されたご家庭も多いと思いますが、季節を問わず気を付けなければならないのが火の取り扱いです。実際に火事を起こしてしまったとき、第一に考えなければならないのは本人や家族、そして近隣住民の安全です。しかし、鎮火後には、どうしてもお金の問題が生じてきます。そこで今回は、アパートの借主が料理中に火事を起こしてアパートを全焼させ、近隣にも延焼させてしまった場合を例に、その後の法律関係にっいて考えてみます
貸主と借主の関係
貸主と借主の間には賃貸借契約が結ばれています。そして、賃貸借契約上、借主は貸主に対して借りた部屋を返す義務を負っています。しかし、火事で建物を消失させてしまった借主は建物を返す義務を果たすことができませんので、この場合、貸主は借主に対して賃貸借契約上の義務違反を理由に損害賠償請求をすることができます。
そして、この賃貸借契約に基づく損害賠償請求の場合には、後述する失火責任法の適用はないと考えられていますので、借主の過失の程度が小さくても責任が発生します。
近隣住民と借主の関係
貸主と借主の間には賃貸借契約が結ばれていましたが、近隣住民と借主の間には何の契約も結ばれていません。そのため、近隣住民が、借主に対して、契約上の義務違反を理由に損害賠償請求することはできません。
しかし、自分の建物が延焼してしまった近隣住民としては、自分の財産が壊されてしまったことになりますので、出火させた借主に不法行為に基づく損害賠償請求をすることができるのが原則です。交通事故の被害者が加害者に損害賠償請求をするのと同じ理屈です。
ところが、不法行為に基づく損害賠償請求の場合には、失火責任法という特別な法律があり、その原則が修正されています。すなわち、近隣住民は、借 主に重大な過失がある場合に限って、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。言い換えると、借主の過失の程度が小さいときには、損害賠償請求はできません。
アパートを借りるときに家財保険に加入することを義務付けられることが多いと思います。これは、借主が火事を起こしたとしても、しっかりと損害賠償を受けられるようにするという貸主側のメリットを図るとともに、損害賠償債務の支払いに困らないように備えるという借主側のメリットを図るためのものです。万が一に備えて、家財保険の保険期間が切れていないか確認しておかれてください。
なお、家財保険も、借主の過失の程度が大きいときには使えないことがあるので、火の取り扱いには十分注意してください。
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