災害を機に地域医療の大切さ再確認 『やっちろ保健室』の運営に尽力
看護学校を卒業後、8年間総合病院で看護師として働いていた蓑田さん。「生活習慣病が引き金となり入院した患者さんが、治療が終わりようやく自宅に戻れたのに、またすぐに戻ってこられるのです」。その現実に、地域ケアの在り方の見直しが急がれると感じ始めていました。
時を同じくして熊本を襲った熊本地震。医療現場に身を置く蓑田さんはこの時、「予防医療や地域医療の必要性をさらに強く感じた」と振り返ります。
そもそも、蓑田さんが看護師を目指したのは、小学2年生の時。10年以上入院していた大好きな祖父の姿を見て「病院ではなく、看護をもっと身近なところでできたら…」という素直な気持ちが沸いてきたのだそうです。その時に感じた思いと、熊本地震の時に抱いた思いが期せずしてつながり、蓑田さんの地域医療への歯車が動き出したのです。
2017年に結婚、出産。その後は、予防医療や地域医療の必要性を体現すべく、訪問看護の道に。看護師の経験を生かし行政でも高齢者支援に携わる中で、「コミュニティナース」や「暮らしの保健室」といった概念や活動に出合いました。
「コミュニティナース」とは、“人とつながり、まちを元気にする”をコンセプトとした活動。令和2年7月豪雨の直後に、ボランティアで坂本町の鶴喰地区を訪れた際、「高齢化が進む集落にこそ人をつなげ、地域を元気にする仕組みが必要」と考え2020年8月に任意団体『やっちろ保健室』を設立。その後2022年8月に(一社)看護のココロへ移行し、やっちろ保健室の活動は現在4年目を迎え、継続中です。
住民の笑顔引き出し地域の力に ようやく地域医療のスタート地点へ
現在、週3日は勤務する谷田病院で訪問看護師として働く蓑田さん。残り2日間を地域の活動にあてています。地域を訪れ、住民の血圧測定をしたり、話を伺ったりしながら健康状態をチェックします。この他、専門機関と連携しデータ分析を行うほか、時にはコンサートやお笑いイベントを開催することも。家にこもりがちな高齢者の交流の場を設け、住民を笑顔、そして元気にしながら地域の力を引き出す活動を続けています。
蓑田さんの地域医療への取り組みは、甲佐町や合志市にも広がりつつあります。「長い道のりでしたが、今ようやく自分のやりたかったことのスタート地点に立てた気がします」と蓑田さん。その道は、まっすぐ、長く続いています。
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●蓑田由貴さん(36歳)
八代市生まれ。鹿児島の看護学校を卒業後、熊本労災病院、熊本中央病院に勤務。2017年結婚、出産後、訪問看護や行政の高齢者支援に関わる。谷田病院(甲佐町)の訪問看護師として働きながら2020年8月、『やっちろ保健室』を主宰。
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