【賃金の前借り】
職場から賃金を前借りする場合には、
❶金銭の貸借
❷翌月以降の給料からの天引きによる弁済
この二つがセットになっていることがあります。しかし、このような賃金の前借りは労働基準法に違反する可能性があります。
労働基準法17条は「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。」と定めています。ここでいう「前借金その他労働することを条件とする前貸の債権」は、まさに上記❶、❷がセットになっているものを指します。このような前借りの約束は、お金を返し終えるまで労働を続けなければならないことになり、身分上の拘束が強すぎるため、法律はこれを禁止しているのです。
使用者がこれに違反して相殺をした場合は、6ヶ月以下の懲役か、30万円以下の罰金の刑事罰が定められています(法119条)。
では、労働することを条件とせずに職場からお金を借りた(お金の貸借はあるが、仕事を辞めることは構わない)場合に、職場が翌月の給料から天引き(相殺)をしたときはどうでしょうか。
労働基準法24条1項は「賃金は、……労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定めています。これを賃金の全額払の原則といいます。この条文により、貸付金を翌月の給料から天引きすることは原則として許されないことになります。使用者は、給料の全額を一旦支払った上で、労働者から任意に弁済してもらう必要があります。
「労働者が自由な意思に基づき相殺に同意したと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、その同意を得てした相殺は、法24条1項に違反しない」とした判例もあります。しかし、これは全額払の原則の例外であり、例外は厳格に考える必要がありますので、労働者の同意があったかどうかは慎重に判断されることになります。
その他、法令に定めがある場合や、一定の要件を満たした労使の自主的な書面協定がある場合には、全額払の原則の例外が認められることがあります。
使用者が法24条1項に違反した場合、30万円以下の罰金の刑事罰が定められています(法120条1号)。
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