教職にトラックの運転手 全ての経験が音楽活動の糧に
バス、バリトン、テノール、カウンターテナーまで4オクターブにわたる奇跡の音域を持つクラシック歌手本岩孝之さん。幼少期から歌うことが大好きで、小学5年の時に『八代少年少女合唱団』に入り、その美声からオペレッタの主役に抜擢されました。「舞台中央に立ち好きな歌を歌いながらスポットライトを浴びる。その時の全身から湧き出る高揚感は今でもはっきりと覚えています」。
高校卒業後は声楽の道に進むべく、東京学芸大に進みましたが、より良い発声法を追求すべく、卒業後は東京藝術大学に入学し、音楽全般にわたってさらに研鑽を重ねました。
東京藝術大学卒業後は様々な私立学校の音楽教師をしながら、テノール歌手として精力的に演奏活動を行い、レッスンに通う生活を続けていました。学校が長期休暇に入ると、テノールの発声技術を習得するためにイタリアへ。「自分の理想とする発声を実現させるために、誰に師事するかは大きな課題でした」と振り返ります。
いろいろな方から技術を学びながらも、最終的に「この人」と師事したのは日本人。声を出す基本を体得するため『重い荷物を持て』と繰り返し言われたことから、配送業に就いた時期も。「誰よりも早く仕事を終え会社に戻り、広い倉庫で歌う生活を徹底して行いました」。
新たな音楽の領域を切り開いていきたい
声を出す基本を体得した本岩さんは、その後カウンターテナーとして歌手デビュー。歌を生かしたホテルウエディングのプロデュース会社を立ち上げるなど、歌を通じたさまざまな縁に導かれるようになりました。
またこの時期に「妻の出身地・山梨に身を置いたことが、人生を変える転機となった」とも。「自然豊かな山梨での暮らしには、常に日本の伝統文化を守る人々の営みがあり、その習わしに触れたことで心のあり方にも変化がみられるようになりました」。
そこから狂言や源氏物語といった日本の文化とオペラを融合したステージに立つ機会が増えた本岩さん。「ベルカント(※)の伝統を築いてきた先人達に習い、そこへ辿り着く努力をし続けることで、今の時代に合った新たな歌の世界を構築したいです」。
八代の風土に育まれ、様々な経験に導かれつつ、より良い歌を実現する運命に引き戻されてきた人生。今後は「日本古来の文化と歌を融合した新たな音楽の領域を切り開いていけたら幸いです」と語ってくれました。
※ベルカント【bel canto】…イタリア語で『美しい歌』という意味。イタリアの伝統的な歌唱法。
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●本岩孝之さん
八代市生まれ。八代高校卒業後、東京学芸大でバス・バリトンを専攻、東京藝術大学でテノールを専攻、東京藝術大学大学院でカウンターテナーを専攻。バリトン、テノール、カウンターテナー全ての声域で歌う唯一無二の歌手として、各地で活躍している。
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