やつしろ日本遺産巡りのすすめ

~石工の郷に息づく石造りのレガシー~

さあ、新しい一年の始まりです。昨年はコロナ禍の影響もあり、日々の生活を見つめ、身近にある大切なものの存在に気づいた人も多かったのではないでしょうか。新年号では【やつしろ日本遺産巡りのすすめ】と題し、私たちが暮らす地域の魅力を紐解きます。遥か遠い昔から現代まで息づいてきた地域の宝や人々の情熱、この機会にゆっくりと思いを馳せてみませんか。

祝・日本遺産認定!世界に誇れるやつしろのストーリー

自治体単独での認定は県内初!その日本遺産とは

2020年6月19日、日本遺産に認定された「八代を創造した石工たちの軌跡~石工の郷に息づく石造りのレガシー~」のニュースに歓喜した市民も多いのではないでしょうか。

この日本遺産とは、文化庁が2015年にスタートした事業で、「日本の歴史的建造物や伝統芸能などの有形・無形の文化財などを活かし、地域の魅力を国内外に分かりやすく伝えることで、地域活性化に結び付けること」を目的としています。

これまで県内では、人吉・球磨地域、山鹿・玉名・菊池市など菊池川流域の2つのストーリーが認定されましたが、自治体単独としての認定は、県内初!

今回、認定された八代地域のストーリーを見つめることは、もしかするといつのまにか見過ごしてきた地域の大切な文化や歴史と共に、先人たちが私たちへつなげてくれた尊いものへ光をあてる時間なのかもしれません。

ストーリー概要 やつしろのストーリー

かつて全国で築かれた「めがね橋」を今も多く見ることができる熊本。それらの多くは、八代で生まれ育った石工たちによって手掛けられたとされています。彼らの卓越した手腕は日本各地で必要とされ、「神田筋違眼鏡橋(萬世橋)」や「通潤橋」などの架設を成功に導き、全国に名声を轟かせるまでに至りました。それ故に、八代は多くの「名石工」を輩出した「石工の郷」と呼ばれています。

石工たちは、八代に広大な平野と豊かな実りをもたらした「干拓事業」や、地域の交通を支えた「めがね橋」の架設などに携わり、八代の発展と人々の生活の基盤づくりに長きにわたって貢献する中で、己の技を磨き上げ、名もなき石工から名石工へと成長していったのです。

彼らが築いた堅牢な干拓樋門、川面に美しいアーチを描くめがね橋、見事な棚田の石垣などの石造りのレガシーは百余年たった今も、まちの景観や人々の暮らしの中に生き続けており、訪れる人々を「石工の郷」へと誘ってくれます。

日本遺産認定までの道のり

2017年6月、八代市では日本遺産を目指す動きがスタートしました。この時、担当に任命されたのが、文化振興課の村田仁志さん。学芸員として培ってきた知識や経験を活かし、大きな挑戦に立ち向かうことになったのです。

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「自治体単独で日本遺産を申請するには、条件がありました。いきなり申請というわけにはいかなかったんです。」(村田さん)。八代市が地域の文化財をどのように守り、街づくりにどう活かしていくのか。それを「八代市歴史文化基本構想」として策定することが申請の条件。入庁後の2年間でまず取り組んだのは、市の概要をはじめ、地域ごとの自然地形、歴史文化などを多岐にわたり調べ上げてまとめる業務。「私は八代出身ではないので、広域にわたる地域のことを調べる苦労は当然ありましたが、新鮮な気持ちで学びながら進めていきました」。こうして約180ページにも及ぶ基本構想が完成。日本遺産の申請に向けての扉が、ここでようやく開かれたのです。

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震災直後の2016年から基礎調査が進み、3年をかけて策定された「八代市歴史文化基本構想」(市のHPに掲載)

ストーリーに込めたやつしろの軌跡

日本遺産認定に向けて八代市がテーマに掲げたのが、「石造りの文化遺産」。”石を題材に八代に残る貴重な石の文化遺産の魅力をアピールしようと、2019年1月、初めての申請を試みます。残念ながら初年度は認定に至らず。翌年2度目のチャレンジで、見事日本遺産認定を果たすことに。

申請に向けて村田さんが一番苦労したのは、「日本遺産ストーリー」のタイトルと概要を文章で表現すること。決められた文字数の中で膨大な情報をまとめ、他地域にはない魅力をストーリーとして仕立てる。この際の言葉の選び方、言い回し、構成によって、八代らしい文化遺産の魅力を伝えなければいけないのです。それはプロのライターであっても決して容易ではない難題。村田さんに託された日本遺産認定の高い壁は、行く日も行く日も目の前に立ちはだかり、眠れぬ夜が続いたといいます。

そんな時、心の中にあったのは、「八代には全国、そして世界に誇れるものがたくさんある!」という確かな思い。干拓事業によって広がった土壌には、農産物が豊かに実り、日本最高峰の石工たちが手掛けた「めがね橋」や「樋門」などの石造りの文化は、歴史にしっかり刻まれ、市民の誇りにつながるもの。日本遺産の取り組みを通じて実感した地域の魅力を、市民の皆さんに伝えたい。その情熱は、自らを奮い立たせ、日本遺産ストーリーの中にていねいに紡がれました。

認定のポイントとなったもの

めがね橋やお城など、”石”にちなんだ文化遺産は、他地域でも多く見られます。今回、認定のポイントになったものは、日本全国に名を轟かせた「石工の活躍」に焦点を当てたこと。また、八代が大きく変わる転換となった「干拓事業」と石工の関係性をとらえたこと。それらを主軸に八代の貴重な歴史文化などにも触れ、ノンフィクションの八代の成長物語として描かれた点が高く評価されました。

村田さんが紡いだ言葉の中に「干拓樋門やめがね橋など、数々の石造物が、百余年たった今も、地域に根付き、人々に大切に受け継がれ、各地で生き続けています」の一文があります。地域の宝が、時代を超え、今私たちに伝えようとしてくれているものとは何なのでしょうか。本紙を片手に日本遺産認定のストーリーに描かれた場所を巡り、ぜひ石工たちの軌跡を辿ってみてください。

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